Jalshaのブログ 炎の舞(7) 第四章 邪法 1. いっときは平和でございましたが、それからまた戦乱の世になりました。帝にお味方して北条殿を滅ぼした足利殿が帝に背き、さらに足利殿の兄と弟とが内輪もめを始め、わけのわからぬ混乱状態になってしまいました。とうとう帝は都を出て吉野山に行幸あそばされ、そこに仮の皇居を定められました。延元二年(1337年)のことでございます。 その年の夏の終り、つくつく法師の鳴くこ... 2019.09.04 Jalshaのブログ
Jalshaのブログ 炎の舞(8) 3. その話はそれまでにして、旅に出ることを申し上げました。すると、 「旅もよかろうが、ここで儂と一緒に修業するのはどうか?」 とおっしゃいますので、 「帝のお近くは、わたくしには窮屈でございます」 と申し上げました。 「そうか。それでは、旅の途中で浪速の阿闍梨さまに会いに行ってくれぬか?」 とおっしゃいます。わたくしも浪速の阿闍梨さまにはご挨拶を申し上げなければと思っておりましたので、... 2019.09.05 Jalshaのブログ
Jalshaのブログ ちょっと休憩 『炎の舞』は終了し、いったん休憩することにしました。なんとなく思いたって書き始め、さまざまの要素を追加しながらできてくるんですが、最初からそんなにはっきりとした方向性があるわけではありません。 文観は実在の人物です。これにたいして浄念は架空の人物です。文観の実在性は、私の中ではかなりはっきりしていて、もう何十年も前から私の心に話しかけてきます。顔つきや声の調子まで思い浮かべることができ... 2019.09.06 Jalshaのブログ
Jalshaのブログ 影の炎 『炎の舞』の続編『影の炎』を連載します。むかし『野田俊作の補正項』に連載したことがあって、再掲載です。 第一部 一揆 一 「影はおるか」 と、殿の声が聞こえました。わたくしは、当番のあいだは御殿の天井裏の「影の間」に潜んでおります。殿のお呼びがあれば壁の中にある梯子を降りて、廊下の隅にある小さな戸をくぐって廊下に出ます。この戸は、影の者以外にはわからぬように、巧妙に目くらま... 2019.09.07 Jalshaのブログ
Jalshaのブログ 影の炎(2) 第二部 修法 一 三日目でございますから、十月九日のことです、師の御坊から知らせがあって、佐々木の殿と会えるように手配せよとのことでございましたので、その日の朝に会っていただきました。 「浄念阿闍梨もご健勝のようで、なによりだ。なんでも、浄阿と一緒に魔を見に行ってくださったとか」 その日は、殿だけでなく、ご家来衆が数人おられましたし、影の者の元締めの竹斎さまもおられました。師の御坊... 2019.09.08 Jalshaのブログ
Jalshaのブログ 影の炎(3) 第三部 廃帝 一 師の御坊とわたくしは、翌朝の便舟に乗りました。便舟と申しますのは、湖の最北端の塩津の港を出て、主だった港々に寄りながら、大津まで行く乗合船でございます。塩津から大津まで三日かかります。わたくしどもは途中の坂田の港から乗りましたが、それでも船中で一泊しなければなりません。佐々木衆の軍船とは舟足がまるで違います。舟が坂田を出たのは午後の早いころでございました。彦根を経... 2019.09.09 Jalshaのブログ
Jalshaのブログ 影の炎(4) 第四部 法会 一 翌朝のことでございます。朝食の後で、 「伊勢に行くと言ったが、はて、どうして行ったものか。美紗、そなたの仲間に、街道について情報を集めてもらうわけにはいかないか」 と師の御坊はおっしゃいました。難波から伊勢に行くには、玉造神社のあたりから東に向かって大和に出て、初瀬の谷を上って宇陀に入り、そこから曽爾、御杖などを経て伊勢に到る伊勢本街道の他に、数本の脇道がございま... 2019.09.10 Jalshaのブログ
Jalshaのブログ 影の炎(5) 第五部 熊野 一 実際、そういうことになったのでございます。 翌々日のことでございました。淡路島が見えなくなりましたので、ずいぶん南に下ったのでございましょう。夕方になると、海はすっかり凪いでしまいました。そうなると、水夫たちは仕事がありません。風が出るか、汐が流れるかまでは、なにもすることがないのです。櫂で漕ぐことはできますが、今夜は月がありませんので、それもできません。そこで、... 2019.09.11 Jalshaのブログ
Jalshaのブログ 影の炎’(6) 第六部 伊勢 一 すこしずつ春になってきましたので、ある日、今後の作戦について話し合いをいたしました。 「わかっていることは少ない。北畠殿のところに天竺聖が入ったというのは、確実だと考えてもよさそうだ。次にかの者がどのように動くかは予測がつかないが、この前のやり口から見ると、北畠殿をたぶらかして、どこかの荘園の百姓衆を扇動し、彼らに一揆を起させて、どこかを攻めるというやり方だろう。... 2019.09.12 Jalshaのブログ
Jalshaのブログ 影の炎(7) 第七部 最後の合戦 一 夜明けのすこし前に、隣の部屋で物音がしましたので、見に行きました。伊賀の中忍の田代弥五郎殿が来ておられました。 「橋の向こうに北畠の本陣があって、北畠顕能卿が入っておられます。おっしゃっていた紅毛碧眼の行者もおります」 と弥五郎殿は言いました。 「今日、出陣するのだろうか」 と師の御坊が尋ねられますと、 「そんなに急いでいる様子ではありません。今日のところは... 2019.09.13 Jalshaのブログ